2023年10月13日
10月8日(日)、岡山県倉敷市にある大原美術館へ。仕事で岡山へ向かう前日、岡山に行ったことのある方とたまたま話していたところ勧められ、行ってみることにした。そう、これまで私はその美術館の存在を知らなかったのである。そして今では、こんなすごい美術館を知らなかった自分にびっくりしている。
列に並んでチケットを購入し、中に入ると、聞いたことのある画家の名前とその作品が次から次へと目に飛び込んでくる。いつか見てみたいと思っていた画家の絵もある。絵だけでなく民芸品などもある。西洋・東洋・国内、世界中から作品が集まっている。国立や県立などの公的な美術館にはない、プライベートミュージアムでしか味わえない感動。しかもこれが地方の岡山県にあるなんて、いったいなぜじゃ…。
倉敷美観地区内にある大原美術館の正門。
創設者・大原孫三郎の旧邸宅から川を隔てて真向いに建つ。
さっそく、大原美術館を創設した大原孫三郎の伝記小説『わしの眼は十年先が見える――大原孫三郎の生涯――』を手に取る。てっきり、大原美術館創設がその人生のメインの仕事かと思っていたが、それに割かれているページは全体の1割程度。その他、企業や金融機関のトップとしての仕事や、当時としてはめずらしく、社会貢献や従業員の福祉のために損得を顧みず奔走した姿などが描かれる。
孫三郎は心の底から「友達」を求めていたという。「それ以外には、何も要りません」とも。そして友達とは、「対等につき合えて、それでいて、ひそかに尊敬できる人」。大原美術館についても、じつは美術品自体が目的だったのではない。最初は絵画等の収集に乗り気ではなかった孫三郎だったが、後に金に糸目をつけないほどになったのは、集めた名画を見に大勢の人々が集まる光景に、亡くなった友人が大勢の前で演説していたときの光景が重なったから。
読みながら、時代の流れの中で、この人間らしくてシンプルな欲望をどこかに置き忘れてきたような気にさせられた。そういえば、おそらく世界中でずっと読まれていくであろう、その意味ではまるで聖書みたいな『人を動かす』(デール・カーネギー)も、原題は『How to Win Friends and Influence People』だった。人を求めることは、時代遅れでもかっこ悪いことでもない。かといって得をすることでもないし、幸せになれるとも限らない。とにかくそれは「リクツじゃなくそこにあるもの」なのだ。