学びの続け方

2025年09月22日

9月13日(土)、大阪・関西万博へ。

熊本駅から新幹線で3時間とちょっと。わりとよく利用している新大阪駅。この日は明らかにいつもと人の多さが違った。よく見ると、万博へ向かっていると思われる人混みのそこかしこで、アイツが見え隠れしている。

駅から移動するためタクシー待ちの列に並ぶと、私たちのすぐ前に1歳の男の子を連れたお母さんがいた。大阪在住で、今日は見送りのため駅に来たという。

「旅行ですか?」と聞かれ、万博へ行くことを伝えると、「私たち7回行きました〜」と話してくれた。さっきのアイツは、そういうことだったのか。リピーターのみなさんが、会場で手に入れたアイツを身につけて、気分を盛り上げながらまた同じ会場に向かっているのだ…。

アイツ(会場にて)。Tシャツ、キーホルダー、エコバッグなどなど、さまざまな化身が存在し、いまや街じゅうに拡散している。かわいいヤツ…。

「ぜひ、大屋根リング見てきてください〜」。お母さんは笑顔でそう言って子供を抱き上げると、タクシーに乗りこみ去って行った。やっぱり大屋根リングなんだな、と思った。

世界最大の木造建築としてギネスにも登録された大屋根リング。いざ会場に到着し、入場ゲートの大行列を1時間以上かかって突破、間近で見あげたそれは圧巻だった。「すごいね」「よく作ったね」と感心しながら眺めたり通路を歩いたりした。

でかーっ!木がめっちゃ組まれてるーっ!これが2キロ続くのだ。こんな巨大な木造建築物を見られるのは最初で最後だろう。来てよかった。

帰宅後、今回の万博を建築の観点から考察した本『未完の万博』を手に取った。

収録された対談のなかで、建築家の藤村龍至氏が行列に関して指摘していた。ああ、あの、渦中にいてぐわんぐわんと不気味に波打って見える瞬間さえあった、恐ろしい大行列…。

大屋根リングの次に忘れられない思い出である、入場ゲートの大行列ジゴク。

藤村氏の指摘はこうだ。

「今回の万博の建築における内部と外部の分断という課題は強く感じました。(中略)ひとつは予約システムの問題です。そもそも、入場に時間がかかり、なかなか会場に入ることができない。 ただ、これはたんに予約システムの設計が悪いということではなく、もっと根深い問題があると感じました。まさしくコロナ禍以降に普及した予約を必要とする社会への移行の象徴が、万博の予約システムです。その背景には、わたしたちの社会がスマホ社会になったことがあります。」

そしてこのことは、パビリオンの展示内容にも影響していたと藤村氏は続ける。

「万博についていろいろな問題が指摘されていますが、いちばん大きな課題だと感じたのは、どのパビリオンの展示もQRコードと映像ばかりになっていることです。会場を歩いているぶんには気持ちがいいけれど、いざパビリオンに入って展示を見ようとすると、どこも映像ばかり。しかもスマホで複雑な操作を求められ、鑑賞時間の半分くらいはアプリのインストールなどに費やすことになる。これはどうしたものかと思わされました。」

必須なのでもちろん私も事前に入場時間を予約していたが、その時間をとうに過ぎても実際の入場ゲートははるか遠くにあった。藤村氏がいうように内部と外部、つまり「情報空間と物理空間の溝がものすごく深まって」いて、私たちはその現実を前にただ辛抱強くたたずむしかなかった。

また、この本のタイトルが「未完の万博」なのは、ロシアが不参加に終わってしまったからだ。ロシア国内ではパビリオン設計案のコンペが行われ、6案にまで絞られていたらしいが、最終案が決まらないうちにウクライナ侵攻がはじまり、辞退が表明されたという。本のなかでその6案が紹介されていて、なんともせつない。

大屋根リングの上から会場を一望できる。予定通りにいけば、アメリカ館、フランス館、ロシア館という並びになっていたそうだ。

今回の万博の会場デザインは、「多様でありながら、ひとつ」を理念としていた。感動もしたけれど、いろいろ考えさせられもした。会期が終わればパビリオンも、大屋根リングもなくなる。でも、そこで得た感動と問題意識は心のなかに残り続ける。

今回の旅の途中で、旅行用のスニーカーの靴底が壊れた。約10年間、国内から海外までいろんなところを歩いた相棒。お疲れ様。次はどんな靴で、どんな場所を歩こうかな。